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平成時代2016〜2019年を中心に社会・経済重要度 A

人手不足と働き方改革―人口減少下の雇用制度はなぜ再設計されたのかひとでぶそくとはたらきかたかいかく じんこうげんしょうかのこようせいどはなぜさいせっけいされたのか

一言でいうと

平成後期の日本では、生産年齢人口の長期的な減少に加え、景気回復や女性・高齢者の就業拡大が進むなかでも、多くの産業・地域で人材確保が難しいという問題が強く意識されるようになりました。同時に、長時間労働、過労死等、正規・非正規雇用の待遇差、育児・介護と仕事の両立など、従来の雇用慣行が抱える課題も改めて問われました。政府は2016年に働き方改革実現会議を設け、2017年3月に『働き方改革実行計画』を決定しました。2018年6月29日に成立した働き方改革関連法は、労働基準法など複数の法律を改正し、時間外労働に罰則付きの上限を設けること、年次有給休暇の確実な取得、勤務間インターバル制度普及への努力、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を解消するための制度整備などを進めました。ただし、各制度は同時に同じ対象へ適用されたわけではなく、時間外労働の上限規制は大企業で2019年4月、中小企業で2020年4月から適用され、建設業や自動車運転業務、医師などにはさらに猶予がありました。同一労働同一賃金に関する制度も企業規模などにより施行時期が異なります。働き方改革は、人口減少だけを理由とした労働供給拡大策でも、長時間労働だけを解決する単一政策でもありません。限られる労働力のなかで働く人の健康と生活を守り、多様な人が就業し続けられる環境をつくり、生産性や処遇の改善を図ろうとした複合的な制度再編として理解する必要があります。

なぜ2010年代後半に『人手不足』が大きな政策課題になったのか

日本の生産年齢人口は1990年代半ばをピークに減少へ転じ、平成後期には少子高齢化による労働力供給の制約がより明確になりました。一方、景気回復局面で企業の求人が増え、女性や高齢者の就業率も上昇したため、単純に『働く人の総数が減ったから人手不足になった』とだけ説明することはできません。産業・職種・地域ごとの需要と供給のずれも重要でした。

厚生労働省は平成30年版労働経済白書で、少子高齢化による労働供給制約を抱えるなか、多様な人が事情に応じて働ける環境と労働生産性の向上が重要だと位置づけています。人手不足への対応は、採用人数を増やすだけでなく、離職を防ぎ、育児・介護などと仕事を両立しやすくすることとも結びつきました。

このため平成後期の雇用政策では、人口減少、労働参加、生産性、労働条件を相互に関連する問題として扱う傾向が強まりました。外国人労働者の受入れ拡大も同時期に進みますが、それは在留資格制度という別の中心問いを持つためTopic 38で扱います。

人手不足の一方で、なぜ長時間労働や待遇差も改革対象になったのか

人手が足りない職場では、既存の労働者へ業務が集中し、長時間労働が固定化する危険があります。日本では労使協定、いわゆる36協定を結べば法定労働時間を超える時間外労働が可能でしたが、改正前は法律そのものに一般的な罰則付き上限が置かれていませんでした。過労死等の防止という観点からも、長時間労働を制度的に抑える必要性が強まりました。

もう一つの論点が、パートタイム、有期契約、派遣など非正規雇用と正規雇用の処遇です。1990年代以後の非正規雇用拡大の背景はTopic 17で扱いますが、平成後期には、雇用形態の違いだけで不合理な待遇差が生じないようにすることが政策課題となりました。

長時間労働の是正と待遇差の見直しは目的が同一ではありません。前者は労働時間と健康確保、後者は雇用形態間の待遇の合理性に重点があります。働き方改革は、こうした異なる課題を一つの政策パッケージにまとめて進めた点に特徴があります。

2017年の働き方改革実行計画は、何を変えようとしたのか

政府は2016年に働き方改革実現会議を設置し、労使代表や有識者を交えて制度改革を検討しました。2017年3月28日に決定された『働き方改革実行計画』は、同一労働同一賃金、長時間労働の是正、柔軟な働き方、女性・若者・高齢者の就業環境などを横断的に扱いました。

ここで重要なのは、『働き方改革』が一つの法律名ではないことです。実行計画で方向性を示し、その後、労働基準法、労働安全衛生法、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法など複数の制度を改めることで具体化されました。

改革には、企業の競争力・生産性向上という経済政策上の狙いと、労働者の健康確保や仕事と生活の両立という社会政策上の狙いが併存していました。そのため、政策全体を『残業削減策』だけに縮めて理解すると、制度の広がりを見失います。

2018年の働き方改革関連法で、労働時間のルールはどう変わったのか

2018年6月29日、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律が成立しました。改正労働基準法では、時間外労働の上限を原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がある場合にも年720時間以内、単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限を設けました。

一般の大企業には2019年4月から、中小企業には2020年4月から上限規制が適用されました。一方、建設事業、自動車運転業務、医師などには業務特性を踏まえた適用猶予が置かれました。したがって2019年4月に日本のすべての職場へ同じ規制が一斉に適用されたわけではありません。

また、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者について、使用者が年5日の取得時季を指定する仕組みなども導入されました。労働時間改革は、残業時間の上限だけでなく、休暇取得や健康確保を含む制度変更でした。

働き方改革関連法は一つの効果を持つ単独制度ではありません。複数の労働関係法を改正し、制度ごとに対象と施行時期も異なりました。

『同一労働同一賃金』は何を目指し、どんな課題を残したのか

働き方改革関連法は、正規雇用労働者と短時間・有期雇用労働者、派遣労働者との間で、不合理な待遇差を設けることを禁止する制度を整えました。職務内容や配置変更の範囲などを考慮し、基本給や賞与、手当、福利厚生などについて待遇差の合理性を問う仕組みです。

ただし『同じ会社なら全員の賃金を同額にする』制度ではありません。職務内容、責任、配置変更の範囲などの違いを考慮しつつ、不合理な差をなくすことが中心です。制度の適用も大企業と中小企業で時期が分かれました。

さらに、法律が成立したことだけで長時間労働、人手不足、男女間格差、正規・非正規間格差がすべて解消したわけではありません。企業の人員配置、取引慣行、賃金制度、労働者の選択なども関わります。働き方改革は、人口減少下の雇用社会を再設計する出発点の一つであり、その効果は制度ごとに検証する必要があります。

Review

入試で押さえるポイント

  • 生産年齢人口の減少と人手不足は、平成後期の働き方改革を進める重要な背景の一つだった。
  • 2017年3月、働き方改革実現会議が『働き方改革実行計画』を決定した。
  • 2018年6月29日に働き方改革関連法が成立し、複数の労働関係法が改正された。
  • 時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間とされ、特別な事情がある場合にも追加の上限が設けられた。
  • 時間外労働の上限規制は業種・企業規模により施行・適用時期が異なり、2019年に全労働者へ一斉適用されたわけではない。
  • 同一労働同一賃金に関する制度は、正規・非正規間のあらゆる賃金差を一律に同額化する制度ではなく、不合理な待遇差の解消を目指した。

Check

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0 / 5 問回答

  1. 問1

    2010年代後半の人手不足は、生産年齢人口の減少だけで説明でき、景気回復や産業・地域ごとの需給の違いはほとんど関係しなかった。

  2. 問2

    『働き方改革』は一つの法律の名称ではなく、2017年の実行計画をもとに複数の労働関係法を改正して進められた政策パッケージだった。

  3. 問3

    時間外労働の上限規制は2019年4月に日本のすべての企業・業種へ一斉に同じ条件で適用された。

  4. 問4

    働き方改革関連法では、時間外労働の上限を原則として月45時間・年360時間とし、特別な事情がある場合にも追加の上限を設けた。

  5. 問5

    同一労働同一賃金の制度は、正規・非正規を問わず同じ会社の全労働者の賃金を完全に同額へ統一することを義務付けた。

Timeline

関連する年表

前後の出来事とつなげて位置を確認できます。

  1. 生産年齢人口の減少を背景に人手不足が広がる
  2. 働き方改革関連法が成立する

Sources

参考資料

  1. 働き方改革実行計画(概要)働き方改革実現会議・首相官邸

    2017年3月28日に決定された改革の政策パッケージと主要課題を確認する。

  2. 『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』について厚生労働省

    2018年成立の関連法、政省令、施行内容を確認する。

  3. 時間外労働の上限規制厚生労働省

    原則月45時間・年360時間、特別条項の上限と施行時期を確認する。

  4. 同一労働同一賃金ガイドライン厚生労働省

    正規・非正規雇用労働者間の待遇差に関する制度の考え方を確認する。

  5. 『平成30年版 労働経済の分析』を公表します厚生労働省

    少子高齢化による労働供給制約と働き方改革・生産性向上の政策的背景を確認する。