インターネット選挙と18歳選挙権―平成後期に政治参加の制度はどう変わったのか
一言でいうと
平成後期には、インターネットの普及と若年層の政治参加をめぐる問題を背景に、選挙に参加する方法と参加できる年齢の双方が見直されました。従来の公職選挙法では、ホームページなどに表示される文字・画像も選挙運動用の『文書図画』に当たると解され、候補者や有権者がインターネットを選挙運動へ使うことには強い制約がありました。2013年4月の公職選挙法改正は、ウェブサイトやSNSなどを利用した選挙運動を解禁し、有権者もインターネット上で候補者への投票を呼びかけられるようにしました。ただし、有権者による選挙運動用電子メールの送信は禁止されたままであり、誹謗中傷・なりすましへの対策も設けられました。また、いわゆる『ネット選挙』はインターネット上で投票する制度ではありません。もう一つの大きな変更が、2015年6月に成立した改正公職選挙法による選挙権年齢の20歳以上から18歳以上への引下げです。改正は2016年6月に施行され、同年7月10日の第24回参議院議員通常選挙が、18歳・19歳が参加した最初の国政選挙となりました。これに合わせて文部科学省と総務省は高校生向け副教材を作成するなど主権者教育を強化しました。一方、制度上投票できる人が増え、候補者情報へ接触しやすくなっても、それだけで若年層の投票や継続的な政治参加が自動的に高まるわけではありません。情報を比較して判断する力、学校教育、投票しやすい環境なども関わります。さらに2016年当時、選挙権年齢は18歳へ下がりましたが、民法上の成年年齢はまだ20歳でした。平成後期の改革は、政治参加への入口を広げる制度変更と、それを実質的な参加へ結びつける課題を同時に示したのです。
なぜインターネットが普及しても、選挙運動には使いにくかったのか
公職選挙法は、選挙運動で配布・掲示できる文書図画の種類や方法を細かく定めています。インターネットが一般化する以前につくられた制度のもとで、政府はホームページや電子メールの画面に表示される文字・画像も『文書図画』に当たり、選挙運動のために公開・送信する行為は原則として既存の規制を受けると解釈していました。
そのため、日常生活ではウェブサイト、ブログ、SNSが重要な情報手段になっても、選挙運動期間中に候補者や有権者がそれらを自由に活用することはできませんでした。候補者情報を増やしたいという要請と、虚偽情報、なりすまし、誹謗中傷などから選挙の公正を守る必要との調整が課題になりました。
2000年代には各党で制度改正が議論され、情報環境の変化と従来の選挙運動規制とのずれが次第に明確になりました。2013年改正は、選挙制度全体を変更するのではなく、選挙運動で利用できる情報伝達手段を拡張する改革として位置づけられます。
2013年の『ネット選挙解禁』で、何ができるようになったのか
2013年4月19日、公職選挙法改正案が参議院本会議で可決され、インターネット等を利用した選挙運動が解禁されました。改正法は、ウェブサイト、ブログ、SNSなどを用いた選挙運動を候補者・政党だけでなく有権者にも認めました。2013年夏の参議院議員通常選挙から新制度が適用されました。
ただし、すべての通信手段が同じように自由化されたわけではありません。選挙運動用の電子メールを送信できる主体は候補者・政党等に限られ、有権者が選挙運動メールを送ったり転送したりすることは認められませんでした。また、発信者情報の表示や、なりすまし・誹謗中傷への対策なども整備されました。
そして最も重要な区別は、『インターネット選挙運動』と『インターネット投票』は別物だという点です。2013年改正で可能になったのは、ネットを使って候補者情報を発信したり投票を呼びかけたりする選挙運動です。投票そのものは従来どおり投票所などで行われました。
『ネット選挙解禁』は、インターネットで投票できるようになったことではありません。解禁されたのは主としてウェブサイトやSNSを利用する選挙運動です。
なぜ選挙権年齢は20歳から18歳へ引き下げられたのか
2015年6月17日、公職選挙法等の一部を改正する法律が成立し、選挙権年齢を満20歳以上から満18歳以上へ引き下げることが決まりました。改正法は6月19日に公布され、1年後の2016年6月19日に施行されました。
文部科学省は、この改正によって『未来の日本の在り方を決める政治について、より多くの世代の声を反映することが可能となった』と説明しています。少子高齢化が進み若年世代の人口比率が小さくなるなか、18歳・19歳も選挙を通じて政治的意思表示をできる制度へ改められたことには大きな意味がありました。
ただし、選挙権年齢と民法上の成年年齢は別の制度です。2016年に18歳選挙権が始まった時点では、民法上の成年年齢はなお20歳でした。成年年齢が18歳へ引き下げられたのは令和期の2022年です。平成の18歳選挙権を『18歳がすべての制度で成人になった』ことと混同してはいけません。
2016年の18歳選挙権と、民法上の成年年齢は別です。当時の成年年齢はまだ20歳で、18歳への引下げは2022年施行です。
2016年参院選と主権者教育は、制度変更をどう社会へつないだのか
18歳選挙権は、改正法施行後に初めて公示される国政選挙から適用されました。その最初の国政選挙が2016年7月10日の第24回参議院議員通常選挙で、18歳・19歳が初めて国政選挙の有権者として投票しました。
選挙権年齢が高校在学中の年齢まで下がったことで、学校教育にも新しい課題が生じました。文部科学省と総務省は高校生向け副教材『私たちが拓く日本の未来』を作成し、選挙制度だけでなく、現実の政治的課題を多面的・多角的に考え、自分の考えを形成する主権者教育を進めました。
主権者教育では政治への関心を高めるだけでなく、学校教育の政治的中立性を確保しながら具体的な政治的事象をどう扱うかも論点になりました。制度上の有権者を増やすことと、判断に必要な知識・情報リテラシーを育てることがセットで課題になったのです。
参加の入口を広げれば、若者の政治参加は自動的に高まるのか
インターネット選挙運動の解禁は候補者や政党の情報へ接触し、SNSなどで意見を共有する経路を増やしました。18歳選挙権は有権者の範囲そのものを広げました。二つの改革はいずれも政治参加への制度的な入口を拡張したといえます。
しかし、投票できることと実際に投票すること、情報を見られることと十分に比較・検討して判断することは同じではありません。若年層の投票率は従来から他の年代より低い傾向があり、18歳選挙権導入後も継続的な参加をどう促すかが課題として残りました。
また、インターネットは情報量を増やす一方で、誤情報、誹謗中傷、なりすましなどを見分ける力も求めます。平成後期の制度改革は、技術と人口構造の変化に合わせて参加資格と情報伝達手段を広げましたが、民主政治の実質は制度だけで決まらず、教育、情報環境、政党・候補者との接点などにも左右されることを示しました。
Review
入試で押さえるポイント
- 2013年の公職選挙法改正で、ウェブサイトやSNSなどを利用した選挙運動が解禁された。
- 有権者による選挙運動用電子メールの送信は解禁されず、候補者・政党等に限定された。
- 『ネット選挙』はインターネット投票ではなく、インターネットを利用する選挙運動の解禁を指す。
- 2015年6月に選挙権年齢を20歳以上から18歳以上へ引き下げる改正公職選挙法が成立した。
- 18歳選挙権は2016年6月に施行され、同年7月の参議院議員通常選挙が最初の国政選挙となった。
- 2016年時点では民法上の成年年齢は20歳であり、18歳選挙権と成年年齢引下げを混同しない。
- 制度上の参加機会拡大だけで若年層の投票・政治参加が自動的に増えるわけではなく、主権者教育や情報環境も重要な課題となった。
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- 問1
2013年の『ネット選挙解禁』によって、有権者は自宅のパソコンやスマートフォンからインターネット投票できるようになった。
解禁されたのはウェブサイトやSNSなどを利用する選挙運動で、投票そのものをオンライン化した制度ではありません。
本文の該当箇所を確認する - 問2
2013年改正後、有権者もSNSやウェブサイトで投票を呼びかけられるようになったが、選挙運動用電子メールの送信は候補者・政党等に限られた。
有権者のウェブ利用は認められましたが、選挙運動用電子メールには主体の制限が残りました。
本文の該当箇所を確認する - 問3
2016年に18歳選挙権が始まった時点で、民法上の成年年齢も同時に18歳へ引き下げられていた。
選挙権年齢と成年年齢は別制度です。2016年時点の成年年齢は20歳で、18歳への引下げは2022年施行です。
本文の該当箇所を確認する - 問4
18歳・19歳が初めて参加した国政選挙は、2016年7月の参議院議員通常選挙だった。
18歳選挙権は2016年6月に施行され、その後最初の国政選挙となった7月の参院選から適用されました。
本文の該当箇所を確認する - 問5
選挙権年齢の引下げとネット選挙運動の解禁によって政治参加の入口は広がったが、若年層の投票や継続的な参加が自動的に高まるとは限らず、主権者教育や情報環境も課題となった。
制度上の参加機会と実際の参加行動は同じではなく、判断力を育てる教育や情報リテラシーも重要な課題です。
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Sources
参考資料
- 公職選挙法の一部を改正する法律案(第183回国会 衆第3号)参議院
2013年のインターネット選挙運動解禁の内容、電子メール等に残った規制を確認する。
- 公職選挙法の一部を改正する法律案 本会議投票結果(2013年4月19日)参議院
インターネット選挙運動解禁法案の参議院可決日を確認する。
- 副教材『私たちが拓く日本の未来』活用のための指導資料文部科学省・総務省
ネット選挙で可能な行為と『インターネットで投票できることではない』という区別を確認する。
- 『主権者教育の推進に関する検討チーム』中間まとめ文部科学省
2015年6月の18歳選挙権法成立、2016年6月施行と主権者教育の位置づけを確認する。
- 平成30年度 文部科学白書 第3章 生涯学習社会の実現文部科学省
18歳選挙権導入後の主権者教育の政策的な位置づけを確認する。
- 民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について法務省
民法上の成年年齢18歳への引下げが2022年4月施行であることを確認し、18歳選挙権と区別する。
