外国人労働者・技能実習から「特定技能」へ―日本はなぜ外国人受入れ制度を拡大したのか
一言でいうと
平成の日本では、外国人が働く経路が一つの制度として一括して拡大したのではなく、在留資格ごとに異なる目的と条件を持つ仕組みが重なりながら広がりました。1990年施行の改正入管法と定住者告示により、日系3世などが『定住者』として来日・在留する経路が明確化され、活動制限のない身分・地位に基づく在留資格で製造業などに就く南米日系人が増えました。1993年には外国人技能実習制度が始まりましたが、その制度目的は日本で培った技能・技術・知識を開発途上地域等へ移転し、人材育成に寄与する国際協力であり、制度上は国内の労働力需給を調整する手段とは位置づけられていません。一方、専門的・技術的分野の在留資格、資格外活動、身分に基づく在留資格など多様な経路を通じて外国人労働者は増え、厚生労働省の届出では2018年10月末に約146万人となりました。2010年代後半には人口減少と人手不足が深刻化し、政府は国内人材の確保や生産性向上を進めてもなお人材確保が難しい産業分野を対象として、新たな在留資格『特定技能』を設けました。改正入管法は2018年12月に成立し、制度は2019年4月に始まりました。技能実習と特定技能には接続経路がありますが、前者は技能移転・人材育成を目的とする制度、後者は人手不足分野で一定の技能を持つ外国人材を受け入れる在留資格で、同じ制度ではありません。平成の外国人受入れを考える際には、『外国人労働者』を一括りにせず、各在留資格の目的、就労制限、労働需要、地域社会での生活という複数の側面を区別する必要があります。
1990年の制度変更は、なぜ日系人の来日・就労増加につながったのか
1990年に施行された改正入管法では在留資格体系が再編され、同年の定住者告示によって日系3世などの受入れが明確化されました。『定住者』など身分・地位に基づく在留資格では、専門職など特定の活動に限らず就労することができます。
この制度のもとで、ブラジルやペルーなどから来日する日系人が増え、自動車・電機など製造業の集積地域で働く人も多くなりました。法務省資料は、1990年に在留資格『定住者』が創設され、南米諸国出身者を中心とした日系人の来日が増えたことを、多文化共生政策が必要になった背景の一つとして説明しています。
ただし、『日系人』という属性自体が労働目的の在留資格なのではありません。就労が可能になったのは、個々の人が『定住者』『日本人の配偶者等』『永住者』など活動制限のない在留資格で在留したためです。在留資格の法的性格と、実際に製造業などで働いた社会経済上の動きを分けて理解する必要があります。
技能実習制度は、なぜ単純な『人手不足対策』とは区別しなければならないのか
1993年、外国人技能実習制度が始まりました。制度は、外国人が日本の企業・団体などで技能を修得し、その技能・技術・知識を母国などへ移転することで、人材育成と国際協力に寄与することを目的として構成されました。
技能実習生は実際の職場で働きながら技能を身につけるため、日本の労働関係法令の適用を受けます。一方、制度の基本理念では、技能実習を国内の労働力不足を補うための『労働力の需給の調整の手段』として行ってはならないと明記されています。
現実には、人手不足の産業や地域で技能実習生が重要な働き手となる場面が増え、賃金未払い、長時間労働、人権侵害などを防ぐ制度運用も大きな課題になりました。だからこそ、制度の公式目的と、受入れ現場で果たした労働力としての役割を同一視せず、両方を区別して見る必要があります。
技能実習制度の公式目的は技能移転を通じた国際協力であり、制度上は労働力需給の調整手段ではありません。後の『特定技能』とは目的・在留資格が異なります。
外国人労働者は、どのような在留資格を通じて増えていったのか
日本で働く外国人には、技能実習生だけでなく、専門的・技術的分野の在留資格を持つ人、永住者や定住者など身分に基づく在留資格を持つ人、留学生として資格外活動の許可を得て働く人などがいます。『外国人労働者』は、法的には一つの在留資格を意味する言葉ではありません。
厚生労働省の外国人雇用状況届出によると、2018年10月末の外国人労働者は146万463人で、届出制度が義務化された2007年以後の過去最高を更新しました。内訳には、身分に基づく在留資格、技能実習、専門的・技術的分野、資格外活動など複数の経路が含まれていました。
外国人住民が長く地域で生活するようになると、雇用管理だけでなく、日本語学習、子どもの教育、医療、住宅、行政情報へのアクセスなども課題になります。平成の外国人受入れは、企業の人材確保だけでなく、地域社会における共生という政策課題も拡大させました。
なぜ2018年に在留資格『特定技能』が新設されたのか
2010年代後半には、生産年齢人口の減少と景気回復を背景に、介護、建設、外食、農業など幅広い分野で人手不足が強く意識されました。政府は国内人材の確保や生産性向上を進めてもなお人材確保が困難な産業分野で、一定の専門性・技能を持つ外国人材を受け入れる仕組みを検討しました。
2018年12月8日、改正出入国管理法が成立し、在留資格『特定技能1号』『特定技能2号』の創設が決まりました。改正法は2019年4月1日に施行され、特定技能制度が平成最後の月に始まりました。
特定技能1号では、対象分野で必要な技能と日本語能力を試験などで確認し、受入れ機関による生活・就労支援も制度化しました。また、一定の技能実習を良好に修了した人には試験免除で特定技能1号へ移行できる仕組みが設けられました。この接続があるため両制度は連続して見えますが、制度目的まで同一になったわけではありません。
受入れ拡大を、なぜ単純に一つの『移民政策』として説明できないのか
平成の外国人受入れ制度は、身分・地位に基づく在留、専門的・技術的な就労、技能実習、留学中の資格外活動、特定技能など、目的と法的根拠が異なる区分を組み合わせていました。受入れ拡大の理由も、国際協力、専門人材獲得、家族・身分関係、人手不足など一様ではありません。
2018年の制度改正をめぐっては、政府は特定技能の創設を、一定の専門性・技能を持ち即戦力となる外国人材を不足分野で受け入れる制度と説明しました。一方、外国人が長期間生活し社会の構成員となる現実をどう位置づけるかについては、『移民政策』という語の定義も含め政治的・社会的な議論が続きました。
そのため歴史を記述するときは、『日本は移民政策を取った/取らなかった』という一語で制度全体を断定するより、どの在留資格で、誰を、どの目的で、どの期間受け入れ、家族帯同や在留更新をどう扱ったのかを具体的に確認する方が正確です。平成の終わりまでに外国人受入れは拡大しましたが、その制度設計と共生政策は令和にも続く課題となりました。
Review
入試で押さえるポイント
- 1990年施行の改正入管法と定住者告示を背景に、南米諸国出身の日系人の来日・就労が増えた。
- 外国人技能実習制度は1993年に始まり、技能移転を通じた国際協力・人材育成を目的とする。
- 技能実習は制度上、国内の労働力需給を調整する手段として行ってはならないとされている。
- 外国人労働者には技能実習、専門的・技術的分野、身分に基づく在留資格、資格外活動など複数の経路がある。
- 2018年12月の入管法改正で在留資格『特定技能1号』『特定技能2号』が創設され、2019年4月に制度が始まった。
- 技能実習と特定技能には移行経路があるが、制度の目的と在留資格は同一ではない。
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- 問1
1990年代に増えた日系人の就労は、『日系人』という名称の労働目的在留資格が新設されたために可能になった。
実際には『定住者』『日本人の配偶者等』『永住者』など、身分・地位に基づき活動制限のない在留資格で就労した人が多くいました。
本文の該当箇所を確認する - 問2
技能実習制度は、制度上は技能移転を通じた人材育成・国際協力を目的とし、国内の労働力需給を調整する手段として行ってはならないとされている。
現場では人手不足産業の重要な働き手となる場面もありましたが、公式の制度目的は労働力不足対策とは区別されています。
本文の該当箇所を確認する - 問3
日本で働く外国人はすべて技能実習または特定技能のどちらかの在留資格に属している。
専門的・技術的分野、身分に基づく在留資格、留学生の資格外活動など、外国人労働者には複数の在留経路があります。
本文の該当箇所を確認する - 問4
2018年の入管法改正で特定技能1号・2号が創設され、制度は2019年4月に始まった。
人手不足が深刻な分野で一定の技能を持つ外国人材を受け入れる制度として、平成最後の月に特定技能制度が始まりました。
本文の該当箇所を確認する - 問5
技能実習から特定技能1号への移行経路が設けられたため、両制度は目的・在留資格とも同一の制度になった。
移行経路はありますが、技能実習は技能移転・国際協力、特定技能は人手不足分野での外国人材受入れを主眼とし、制度目的と在留資格は異なります。
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Sources
参考資料
- 令和2年度 在留外国人に対する基礎調査報告書 はじめに出入国在留管理庁
1990年施行の改正入管法で在留資格『定住者』が創設され、南米諸国出身の日系人の来日が増えた経緯を確認する。
- 我が国における日系人の状況法務省入国管理局
1990年の定住者告示と日系人受入れの推移を確認する。
- 技能実習の基本理念外国人技能実習機構
技能移転・人材育成という制度目的と、労働力需給の調整手段として行ってはならないという基本理念を確認する。
- 『外国人雇用状況』の届出状況について(平成30年10月末現在)厚生労働省
2018年10月末の外国人労働者数146万463人と在留資格別の構成を確認する。
- 特定技能制度出入国在留管理庁
2018年の法成立、2019年4月の制度開始と特定技能制度の資料を確認する。
- 在留資格『特定技能』の新設に係る特例措置法務省
2019年4月1日の改正入管法施行と、技能実習2号修了者から特定技能1号への移行措置を確認する。
