ロシアのウクライナ侵攻と日本の対露制裁―国際秩序の危機は日本外交をどう変えたのか
一言でいうと
2022年2月24日にロシアがウクライナへの全面的な軍事侵攻を開始すると、日本政府は主権・領土一体性を侵害する国際法違反として強く非難し、翌25日から資産凍結や金融機関への措置、軍事関連団体や半導体などに対する輸出規制を打ち出しました。日本はG7との連携を強め、ウクライナへの人道・財政支援や避難民の受入れも進めました。一方で、サハリン1・2の権益はエネルギー安全保障上重要として維持する方針をとり、対露制裁と安定供給を同時に考える必要にも直面しました。2023年には岸田文雄首相がキーウを訪問し、G7広島サミットにゼレンスキー大統領が対面参加しました。令和の対露政策は、従来の日露交渉だけではなく、力による一方的な現状変更を認めないという国際秩序の問題と結びついて再編されたのです。
日本はロシアの侵攻をどう位置づけ、最初に何をしたのか
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの大規模な軍事行動を開始しました。日本政府は、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害し、武力の行使を禁ずる国際法と国連憲章に反する行為だとして最も強い言葉で非難しました。
翌25日、日本政府はロシア関係者への査証発給停止・資産凍結、ロシアの3金融機関の資産凍結、ロシアの軍事関連団体や半導体などへの輸出制裁を表明しました。その後も制裁対象の追加、輸出入規制、金融措置などが段階的に拡大されました。
ここで重要なのは、日本の措置がウクライナ戦争そのものへの参戦ではなく、経済・金融・輸出管理などを通じてロシアへ圧力を加える政策だったことです。日本政府はこの対応を、欧州だけの地域問題ではなく、アジアを含む国際秩序の問題として説明しました。
日本はロシアの侵攻を国際法・国連憲章に反する『力による一方的な現状変更』の問題と位置づけ、G7などと連携して経済・金融制裁を強めました。
なぜ日本はG7との連携を重視したのか
日本の対露制裁は単独で設計されたものではありません。米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、EUなどG7のパートナーと制裁・支援方針を調整し、ロシアに対する国際的な圧力を維持することが重視されました。
背景には、ロシアによる侵攻を容認すれば、武力によって国境や政治秩序を変更する行為を抑止しにくくなるという日本政府の認識がありました。そのため、日本はウクライナ情勢を欧州だけの安全保障問題とはみなさず、インド太平洋を含む国際秩序にも関係する問題としてG7の結束を訴えました。
2023年5月のG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領が対面参加し、G7首脳とのウクライナ・セッションが開かれました。議長国日本は、ウクライナ支援と対露制裁の継続、主権・領土一体性や法の支配の原則を確認する場を主導しました。
制裁だけでなく、人道支援と避難民受入れはどう進んだのか
日本の対応は制裁に限られませんでした。2022年3月2日、岸田首相はウクライナから第三国へ避難した人々の日本への受入れを進める方針を表明しました。政府は関係省庁の連絡調整体制を整え、在留資格、住居、生活費、日本語学習、就労などの支援を進めました。
出入国在留管理庁は、避難を目的に来日した人が日本での滞在を希望する場合、就労可能な在留資格への変更を認めるなど柔軟な対応を行いました。自治体、企業、NPO・NGOなどによる支援との調整も行われました。
この受入れは、日本の難民・避難民政策を考えるうえでも重要な事例となりました。ただし、ウクライナ避難民の受入れを、そのまま日本の難民認定制度全体の評価と同一視することはできません。制度上の扱いと緊急時の政策対応を分けて考える必要があります。
なぜ制裁を強めながらサハリン1・2の権益は維持したのか
対露制裁を強める一方、日本政府はロシア極東の石油・天然ガス事業であるサハリン1・2について、日本側の権益を維持する方針をとりました。資源エネルギー庁は、サハリン1を中東以外から原油を調達できる重要な供給源、サハリン2を日本のLNG供給にとって重要な事業と位置づけています。
日本が撤退して権益をロシアや第三国へ移せば、ロシアの収入を減らす制裁として有効とは限らず、日本側はより高い価格で代替エネルギーを調達しなければならない可能性もありました。そのため政府は、対露制裁の実効性と日本のエネルギー安定供給の双方を考慮すると説明しました。
この点は、外交・安全保障政策が一つの価値判断だけで決まらないことを示しています。国際秩序を守るための制裁と、国内の電力・ガス供給を支えるエネルギー安全保障を同時に調整する必要があったのです。
対露制裁とサハリン権益維持は単純な矛盾ではなく、制裁の実効性とエネルギー安全保障を同時に調整する政策課題でした。
2023年のキーウ訪問とG7広島サミットは何を示したのか
2023年3月21日、岸田首相はウクライナを訪問し、キーウでゼレンスキー大統領と会談しました。日本の首相が侵攻下のウクライナを訪問したことは、日本がG7議長国としてウクライナ支援と国際秩序の原則を外交の中心課題に据えていることを示す出来事となりました。
同年5月のG7広島サミットにはゼレンスキー大統領が対面参加し、ウクライナ問題が主要議題の一つとなりました。日本政府は、ウクライナへの外交・財政・人道支援を続けること、厳しい対露制裁を維持すること、力による一方的な現状変更を認めないことをG7と確認しました。
令和初期の対露外交は、北方領土問題や経済協力を通じて関係改善を探ってきた従来の日露関係から大きく環境が変わりました。ただし、ウクライナ侵攻だけで日本の安全保障政策全体を説明することはできません。反撃能力や防衛力整備を定めた2022年の安全保障関連3文書は、次のTopicで別に扱います。
Review
入試で押さえるポイント
- 2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を、日本政府は主権・領土一体性を侵害する国際法違反として非難した
- 日本は資産凍結、金融機関への措置、軍事関連団体や半導体などへの輸出規制を含む対露制裁を段階的に強化した
- 日本はG7との連携を重視し、ウクライナへの人道・財政支援や避難民受入れも進めた
- 日本政府は対露制裁を続けながら、エネルギー安全保障上の重要性からサハリン1・2の権益を維持する方針をとった
- 2023年3月に岸田首相がキーウを訪問し、5月のG7広島サミットにはゼレンスキー大統領が対面参加した
- ウクライナ侵攻後の日本外交は、力による一方的な現状変更を認めないという国際秩序の問題と強く結びついた
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- 問1
日本の対露制裁は、自衛隊がウクライナ戦争へ参戦してロシア軍との戦闘に加わることを中心とした政策だった。
日本は資産凍結、金融措置、輸出規制などの経済・金融制裁を行い、人道・財政支援も進めましたが、戦争への参戦とは別の政策です。
本文の該当箇所を確認する - 問2
日本はロシアの侵攻を欧州だけの地域問題とはみなさず、国際秩序に関わる問題としてG7各国との制裁・支援の連携を重視した。
日本政府は主権・領土一体性や法の支配の問題として位置づけ、G7との結束と対露圧力の維持を重視しました。
本文の該当箇所を確認する - 問3
ウクライナ避難民の受入れは、日本の難民認定制度そのものを全面的に改正し、すべての難民申請者を同じ仕組みで受け入れる制度へ変更したことを意味する。
ウクライナ避難民には緊急時の受入れ・在留支援が行われましたが、これを日本の難民認定制度全体の変更と同一視することはできません。
本文の該当箇所を確認する - 問4
日本政府は対露制裁を続けながらも、エネルギー安全保障上の重要性などを理由にサハリン1・2の権益を維持する方針をとった。
制裁の実効性と国内の石油・LNG安定供給を同時に考慮する必要があるとして、権益維持が選択されました。
本文の該当箇所を確認する - 問5
2022年のウクライナ侵攻だけで、その後の日本の安全保障政策のすべてを説明でき、東アジア情勢やミサイル・サイバーなど他の要因は考慮する必要がない。
ウクライナ侵攻は重要な要因ですが、日本の安全保障政策には中国・北朝鮮を含む地域情勢、ミサイル技術、サイバー・宇宙領域など複数の要因が関わります。
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Timeline
関連する年表
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Sources
参考資料
- ロシアによるウクライナへの軍事行動の開始を受けた制裁措置(外務大臣談話)外務省
2022年2月25日の日本政府による非難と初期制裁措置を確認
- ウクライナ避難民に関する情報出入国在留管理庁
2022年3月以後のウクライナ避難民受入れ・支援体制を確認
- エネルギー白書2022 第1部第3章第2節 世界的なエネルギー価格の高騰とロシアのウクライナ侵略資源エネルギー庁
サハリン1・2のエネルギー安全保障上の位置づけと権益維持方針を確認
- Visit to UkrainePrime Minister's Office of Japan
2023年3月21日の岸田首相によるウクライナ訪問を確認
- G7広島サミット セッション8『ウクライナ』概要外務省
2023年5月のG7広島サミットにおけるウクライナ支援・国際秩序をめぐる合意を確認
