同性婚訴訟とLGBT理解増進法―性的少数者をめぐる法制度は令和にどう変化したのか
一言でいうと
令和期には、同性同士が法律婚を利用できない現行制度の憲法適合性を問う訴訟と、性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性について国民の理解を促進する立法が並行して進みました。2021年3月17日の札幌地裁判決は、同性カップルに婚姻による法的効果の一部さえ認めない制度について憲法14条1項との関係を問題とし、一連の訴訟で初めて違憲判断を示しました。その後、各地の判決が積み重なり、2025年までの6件の控訴審では5高裁が違憲、東京高裁の別事件1件が合憲と判断して結論が分かれました。2026年3月25日、最高裁は6件を大法廷で審理すると決めましたが、同年8月21日の収録基準日では統一的な憲法判断はまだ示されていません。一方、国会は2023年6月に性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進法を成立させ、2026年6月には同法に基づく基本計画が閣議決定されました。ただし、この法律は同性婚を法制化する法律ではありません。裁判による憲法審査と、国会・政府による理解増進政策を区別しながら、性的少数者をめぐる法制度の変化を捉える必要があります。
2021年の札幌地裁判決は、何を問い直したのか
2019年以降、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡で同性カップルらが、同性同士の婚姻を認めていない民法・戸籍法の規定は憲法に違反するとして国を相手に訴訟を起こしました。争点となったのは、婚姻に関する憲法24条や法の下の平等を定める14条などと現行制度の関係です。
2021年3月17日、札幌地方裁判所は一連の訴訟で最初の判決を言い渡しました。判決は、同性カップルに婚姻によって生じる法的効果の一部さえ享受する法的手段を設けていないことについて、性的指向による区別との関係から憲法14条1項に違反すると判断しました。
一方で、原告らの国家賠償請求は認められませんでした。また、この判決によって全国で同性婚が可能になったわけでもありません。地方裁判所の一判決として、現行制度の憲法適合性を司法の場で具体的に問う流れを可視化した点に意味があります。
札幌地裁判決は同性婚を直ちに法制化した判決ではなく、現行制度の憲法適合性について最初の違憲判断を示したものです。
なぜ高裁判断は積み重なりながら、結論が一つに定まらなかったのか
各地の訴訟は控訴審へ進みました。2024年3月の札幌高裁を皮切りに、東京第1次、福岡、名古屋、大阪の各控訴審は、同性カップルが現行の法律婚制度を利用できないことについて、憲法14条や24条との関係から違憲と判断しました。
しかし2025年11月28日の東京高裁第2次訴訟は、現行制度を合憲と判断しました。これにより、6件の控訴審は『違憲5件、合憲1件』となりました。判決ごとに憲法24条の婚姻の捉え方、14条の平等原則、社会状況の変化をどの程度重視するかなど、理由付けにも違いがあります。
したがって、『高裁で違憲と確定した』と理解するのは誤りです。下級審の判断が多数積み重なった一方で結論は分かれており、最高裁による統一的な憲法判断が必要な段階へ進んだと捉えるのが適切です。
2023年のLGBT理解増進法は、何を定めたのか
2023年6月16日、国会で『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律』が成立し、同月23日に公布・施行されました。一般にLGBT理解増進法と呼ばれます。
法律は、性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性への国民の理解を深め、相互に人格と個性を尊重し合う社会を目指すことを目的とします。国・地方公共団体の役割、事業主や学校設置者の努力、政府による基本計画、学術研究、知識の普及、相談体制の整備などを定めました。
ここで重要なのは、この法律が同性婚を認める民法・戸籍法の改正ではないことです。また、性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする差別を一律に禁止し、民事上の救済手段を包括的に定めた一般的な差別禁止法とも異なります。法律の目的と効果を、同性婚訴訟の争点と混同しない必要があります。
LGBT理解増進法は理解促進の基本理念と施策枠組みを定める法律であり、同性婚法制化そのものではありません。
理解増進法は、2026年の基本計画へどう具体化されたのか
理解増進法は、政府に基本計画の策定を求めています。施行後、内閣府に関係行政機関の連絡会議が置かれ、学術研究、広報・啓発、相談体制、地方公共団体や職場・学校での取組などについて検討が続けられました。
2026年6月16日、政府は同法8条に基づく『性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画』を閣議決定しました。法律成立から約3年を経て、理解増進施策を総合的・計画的に進める行政上の枠組みが具体化したことになります。
この基本計画も、婚姻制度そのものを変更するものではありません。裁判で問われているのは民法・戸籍法上の法律婚制度の憲法適合性であり、理解増進法と基本計画は多様性への理解を進める行政政策です。両者は関連する社会課題を扱いますが、法的な役割は異なります。
2026年の最高裁大法廷審理は、何を意味するのか
6件の控訴審判決はいずれも最高裁へ上告され、2026年3月25日、最高裁第3小法廷はこれらを裁判官15人全員で構成する大法廷で審理することを決めました。複数の高裁で憲法判断が分かれた問題について、最高裁が統一的な判断を示すための段階へ進んだことを意味します。
ただし、大法廷へ回付されたこと自体は、『違憲』または『合憲』という結論を先に示したものではありません。2026年8月21日の収録基準日時点では大法廷の最終判断は出ていないため、どの憲法条項をどのように解釈するか、国会にどのような対応が求められるかを確定事項として先取りしてはいけません。
令和期の同性婚訴訟は、性的少数者の権利をめぐる議論を司法の場で具体化し、下級審の判断を積み重ねてきました。同時に国会は理解増進法を制定しましたが、婚姻制度の変更はなお別の立法課題として残っています。司法判断と立法・行政政策が異なる経路で進んでいることが、このテーマの核心です。
Review
入試で押さえるポイント
- 2021年3月17日の札幌地裁判決は、一連の同性婚訴訟で最初の違憲判断を示したが、同性婚を直ちに法制化した判決ではない
- 2025年までの6件の控訴審は5高裁が違憲、東京高裁第2次訴訟1件が合憲と判断し、結論が分かれた
- LGBT理解増進法は2023年6月16日に成立し、性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解増進の施策枠組みを定めた
- LGBT理解増進法は同性婚法制化でも、一般的な包括差別禁止法でもない
- 2026年6月16日に理解増進法に基づく基本計画が閣議決定された
- 2026年3月25日に最高裁が6件を大法廷で審理すると決めたが、同年8月21日時点で統一的な憲法判断はまだ示されていない
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- 問1
2021年の札幌地裁判決によって全国で同性婚が直ちに可能となり、民法・戸籍法の規定もその時点で改正された。
札幌地裁判決は現行制度の憲法適合性について違憲判断を示しましたが、それ自体で全国の婚姻制度を改正したわけではありません。
本文の該当箇所を確認する - 問2
2025年までの6件の控訴審では、5件が違憲、1件が合憲と判断し、高裁段階でも結論は完全には一致していない。
複数の高裁が違憲判断を示した一方、東京高裁の別事件では合憲判断があり、理由付けも含めて統一されていません。
本文の該当箇所を確認する - 問3
2023年のLGBT理解増進法は、同性婚を法制化するために民法と戸籍法を改正した法律である。
同法は性的指向・ジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解増進の基本理念や施策枠組みを定める法律で、婚姻制度そのものを変更する法律ではありません。
本文の該当箇所を確認する - 問4
理解増進法に基づく基本計画と、同性婚訴訟で争われている法律婚制度の憲法適合性は、関連する社会課題ではあるが法的な役割が異なる。
基本計画は理解増進の行政施策を具体化するもので、裁判は民法・戸籍法上の婚姻制度の憲法適合性を審査するものです。
本文の該当箇所を確認する - 問5
最高裁が同性婚訴訟を大法廷で審理すると決めたこと自体が、現行制度を違憲とする最終判決を示したことを意味する。
大法廷への回付は最高裁が統一的な判断を示すための審理段階であり、それ自体は合憲・違憲の結論ではありません。
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Timeline
関連する年表
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Sources
参考資料
- 令和7年3月7日 名古屋高等裁判所判決裁判所
札幌地裁判決以後の司法判断の蓄積と、同性カップルが法律婚制度を利用できない区別について憲法14条1項・24条2項に違反するとした判断を確認
- 令和7年3月25日 大阪高等裁判所判決裁判所
同性婚を法制化しない現行規定について憲法14条1項・24条2項違反とした控訴審判断を確認
- 性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進内閣府
理解増進法の目的、国・地方公共団体の役割、基本計画、研究・普及・相談体制などの制度を確認
- 第211回国会で成立した内閣府所管の法律の概要内閣府
理解増進法が2023年に成立した議員立法であり、国・地方公共団体の役割、事業主等の努力義務、基本計画等を定めたことを確認
- 性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する基本的な計画内閣府
理解増進法8条に基づく基本計画が2026年6月16日に閣議決定されたことを確認
- 同性婚訴訟最高裁が統一判断へ 高裁では『違憲』5件『合憲』1件テレビ朝日
2026年3月25日に最高裁が6件を大法廷で審理すると決め、控訴審判断が違憲5件・合憲1件に分かれていることを確認
