← 令和時代の年表へ戻る
令和時代2019〜2023年政治・外交重要度 A

日韓輸出管理と元徴用工訴訟問題―令和初期の日韓関係はなぜ経済と歴史認識の対立を併せ持ったのかにっかんゆしゅつかんりともとちょうようこうそしょうもんだい れいわしょきのにっかんかんけいはなぜけいざいとれきしにんしきのたいりつをあわせもったのか

一言でいうと

令和初期の日韓関係では、植民地支配下の労働動員をめぐる韓国大法院判決と、安全保障貿易管理をめぐる日韓両政府の対立が重なりました。2018年、韓国大法院は日本企業に対する損害賠償請求の一部を認め、原告らの慰謝料請求は1965年の日韓請求権協定の対象に含まれないと判断しました。日本政府はこれに対し、請求権に関する問題は同協定によって『完全かつ最終的に解決』されており、判決は国際法上問題があるとの立場を示しました。2019年7月、日本の経済産業省は韓国向けのフッ化水素・フッ化ポリイミド・レジストの輸出について包括許可から個別許可へ運用を見直し、8月には韓国を輸出管理上の優遇対象であるグループAから除外しました。日本政府は安全保障貿易管理上の運用見直しであり、元徴用工訴訟問題とは別問題だと説明しましたが、韓国政府は大法院判決に対する報復的な貿易措置だと反発し、WTOの紛争解決手続へ進みました。2023年3月、韓国政府は韓国の財団が2018年の確定判決の原告へ判決金等を支給する方策を発表し、日本政府は日韓関係を健全な状態へ戻す動きとして評価しました。同時期に輸出管理当局間の政策対話も再開され、3品目の運用見直し、さらに韓国のグループA復帰へ進みました。ただし、両国の1965年協定や大法院判決に対する法的立場が同一になったわけではなく、被害者側にも韓国政府案を受け入れない人々がいました。令和初期の日韓関係は、歴史問題と経済政策が政治的には強く結びついて見えながら、制度上は別の論理と手続で動いたことを区別して理解する必要があります。

令和に持ち越された元徴用工訴訟問題は、何をめぐる法的対立だったのか

対立の直接の前提は平成末の2018年にありました。韓国大法院は10月30日、日本製鉄の前身企業で労働した原告らの損害賠償請求について、原告らが求める慰謝料は、日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した反人道的な不法行為を理由とするものであり、1965年の日韓請求権協定の適用対象には含まれないと判断しました。11月には三菱重工業をめぐる訴訟でも原告側の請求を認める確定判決が出ました。

これに対して日本政府は、1965年の日韓請求権・経済協力協定によって両国とその国民の財産・請求権に関する問題は『完全かつ最終的に解決』されたという立場をとり、韓国大法院判決によって日本企業へ賠償を求める状態は協定に反し、国際法上の問題を生じさせていると主張しました。

したがって、この問題は単に歴史的事実をどう記憶するかという争いではありません。植民地支配下の被害をどう評価するかに加え、1965年協定が個々の損害賠償請求をどこまで処理したのかという法的解釈が両国の政府・司法の間で対立したことが重要です。

2018年大法院判決と日本政府の立場の違いは、1965年請求権協定が原告らの損害賠償請求をどこまで処理したのかという法的解釈の対立として整理する必要があります。

2019年7月、日本の韓国向け輸出管理は具体的に何が変わったのか

2019年7月1日、経済産業省は韓国向け輸出管理の運用を見直すと発表しました。7月4日から、半導体・ディスプレイ製造にも使われるフッ化水素、フッ化ポリイミド、レジストの3品目について、包括許可の対象から外し、原則として個別の輸出許可を求める運用へ切り替えました。

さらに8月2日、日本政府は輸出貿易管理令の改正を閣議決定し、8月28日に韓国を輸出管理上のグループA、当時いわゆる『ホワイト国』と呼ばれていた優遇対象から除外しました。これにより一般包括許可が利用できなくなり、リスト規制対象外の品目にも一定の場合にキャッチオール規制が適用されるなど、韓国向け輸出の審査・管理は従来より厳格になりました。

日本政府は、この見直しを外為法に基づく安全保障貿易管理の適切な実施のための措置と説明しました。経済産業省は、韓国の輸出管理制度・運用への懸念や輸出管理当局間の政策対話が長期間開かれていなかったことなどを理由として示しました。輸出そのものを全面的に禁止する措置ではなく、許可手続と国別カテゴリーを見直した点を区別する必要があります。

なぜ輸出管理の問題が、元徴用工訴訟問題と一体の対立として受け止められたのか

輸出管理の見直しが行われた時期は、2018年大法院判決をめぐって日韓両政府の対立が急速に深まっていた時期と重なりました。そのため韓国政府は、日本の措置を通常の輸出管理制度の見直しではなく、大法院判決に対する報復的で差別的な貿易措置だと位置づけ、撤回を求めました。韓国は2019年9月、3品目に関する日本の措置をWTOの紛争解決手続へ持ち込みました。

一方、日本政府は輸出管理と旧朝鮮半島出身労働者問題は『全く別の問題』だという説明を維持しました。つまり、韓国側は歴史問題と輸出管理の政治的な連続性を強く指摘し、日本側は制度上の理由と手続を分離して説明したことになります。どちらか一方の説明をそのまま事実認定として採用すると、当時の対立構造を見誤ります。

対立は政府間だけにとどまらず、韓国では日本製品の不買運動や訪日旅行を控える動きも広がりました。経済・市民交流にも影響が及んだことで、元徴用工訴訟をめぐる法的対立と輸出管理をめぐる政策対立が、社会的には一つの日韓関係悪化として経験されるようになりました。

日本政府は輸出管理を安全保障貿易管理上の措置と説明し、韓国政府は大法院判決への報復的措置だと反発しました。両政府の説明が異なっていたこと自体が、令和初期の日韓対立の重要な史実です。

2023年3月の韓国政府解決策は、2018年判決をどう履行しようとしたのか

2023年3月6日、尹錫悦政権の韓国政府は、2018年大法院の確定判決をめぐる解決策を発表しました。韓国政府の下で設立された『日帝強制動員被害者支援財団』が、確定判決の原告に対して判決金と遅延利息を支給する方式をとり、日本企業が判決金を直接支払う形を避けながら判決の履行を進めようとしたものです。

日本政府は同日、この措置を2018年大法院判決によって厳しい状態にあった日韓関係を健全な状態へ戻すための動きとして評価しました。また、1998年の日韓共同宣言を含む歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいるとの立場を改めて示しました。

ただし、韓国政府案に対する評価は一様ではありませんでした。財団から判決金を受け取った原告・遺族がいる一方、受領を拒む被害者・遺族もおり、韓国政府は後に一部について供託手続を進めました。したがって2023年3月の方策を、被害者側を含むすべての当事者が合意した最終的解決と表現することはできません。

関係改善の中で、輸出管理はどのように2019年以前の状態へ近づいたのか

韓国政府が元徴用工訴訟問題の解決策を発表した2023年3月6日、日韓両政府は輸出管理についても政策対話を再開し、2019年7月以前の状態へ戻すための協議を速やかに進めると発表しました。韓国側は協議中、WTO紛争解決手続を中断することとしました。

経済産業省は韓国側の輸出管理制度や運用状況を確認したうえで、3月23日にフッ化水素・フッ化ポリイミド・レジストを特別一般包括許可の対象へ戻しました。さらに政策対話を重ね、6月27日に韓国を輸出貿易管理令別表第3へ再び加える政令改正を閣議決定し、7月21日に施行しました。これにより韓国は再びグループAとして扱われることになりました。

2019年に厳格化された輸出管理が2023年に段階的に見直されたことで、日韓の経済関係は改善へ向かいました。ただし日本政府は、2023年の政策対話でも輸出管理の判断は安全保障貿易管理上の確認に基づくもので、元徴用工訴訟問題とは別だという説明を続けています。外交上は同時期に関係改善が進んでも、二つの問題を制度上同一の取引として説明しないことが重要です。

なぜ2023年の関係改善を『歴史問題の解決』とだけ捉えてはいけないのか

2023年には、韓国政府による判決金支給の仕組み、日韓首脳・外交当局間の対話、輸出管理の運用見直しが並行して進み、2019年以後の厳しい日韓関係は改善しました。経済・安全保障・人的交流を再び拡大する政治的な環境が整った点は重要です。

しかし、韓国大法院の2018年判決が変更されたわけでも、日本政府が1965年請求権協定に関する従来の立場を変更したわけでもありません。韓国国内でも政府解決策をめぐる異論が続きました。したがって令和初期の日韓関係は、対立する法的立場を残したまま、政府間で実務的な関係改善を進めた過程として理解するのが適切です。

このTopicでは、歴史認識、条約解釈、裁判、輸出管理、外交交渉を一つの原因だけで説明しないことが最も重要です。相互に影響し合った政治状況と、それぞれ別の制度・法的論理を持つ問題とを同時に見る必要があります。

Review

入試で押さえるポイント

  • 2018年韓国大法院判決は、日本企業に対する原告らの慰謝料請求を1965年日韓請求権協定の対象外と判断した一方、日本政府は請求権に関する問題は同協定で完全かつ最終的に解決済みとの立場を示した
  • 2019年7月、日本はフッ化水素・フッ化ポリイミド・レジストの韓国向け輸出を包括許可から個別許可へ見直した
  • 2019年8月28日、韓国は日本の輸出管理上のグループAから除外され、韓国政府は一連の措置を大法院判決への報復的措置だと反発した
  • 日本政府は輸出管理の見直しを安全保障貿易管理上の措置と説明し、元徴用工訴訟問題とは別問題との立場をとった
  • 2023年3月、韓国政府は韓国の財団が2018年確定判決の原告へ判決金等を支給する方策を発表し、日本政府は日韓関係改善につながる措置として評価した
  • 2023年には3品目が特別一般包括許可の対象へ戻され、7月21日には韓国が再びグループAとして扱われるようになった
  • 2023年の関係改善後も、1965年請求権協定や2018年大法院判決をめぐる日韓の法的立場が同一になったわけではない

Check

理解度チェック

各文が正しいか、○か×で答えてください。回答すると、その場で解説を確認できます。

0 / 5 問回答

  1. 問1

    2018年の韓国大法院判決と日本政府は、1965年の日韓請求権協定が原告らの慰謝料請求をどこまで処理したかについて同じ法的解釈を共有していた。

  2. 問2

    2019年の日本の措置は、韓国向けのすべての輸出を禁止する全面禁輸ではなく、3品目の許可運用と国別カテゴリーを見直すものだった。

  3. 問3

    2019年の輸出管理見直しについて、日本政府と韓国政府はともに『2018年大法院判決への報復措置』という同じ説明をしていた。

  4. 問4

    2023年3月の韓国政府案は、韓国の財団が確定判決の原告へ判決金等を支給する仕組みだったが、被害者側を含むすべての当事者が受け入れたわけではない。

  5. 問5

    2023年に韓国が再び輸出管理上のグループAとなったことで、1965年請求権協定や2018年大法院判決をめぐる日韓の法的立場も一致した。

Timeline

関連する年表

前後の出来事とつなげて位置を確認できます。

  1. 日本が韓国向け半導体材料などの輸出管理を厳格化する
  2. 日本が輸出管理上の優遇対象国から韓国を除外する
  3. 韓国政府が元徴用工訴訟問題の解決策を発表する

Sources

参考資料

  1. Supreme Court en banc Judgment 2013Da61381 Rendered October 30, 2018Supreme Court of Korea

    2018年10月30日の大法院判決について、原告らの損害賠償請求と1965年日韓請求権協定の関係に関する裁判所の判断を確認する。

  2. 韓国向け輸出管理の運用の見直し経済産業省

    2019年の3品目の許可運用見直し、グループA除外、2023年の政策対話・運用再見直しを確認する。

  3. MOFA Spokesperson’s Statement on Japanese Government’s Official Removal of ROK from its WhitelistMinistry of Foreign Affairs, Republic of Korea

    2019年8月のグループA除外について、韓国政府が大法院判決への報復的措置と位置づけた公式見解を確認する。

  4. 強制徴用 大法院判決 関連 政府立場 発表文大韓民国外交部

    2023年3月6日の韓国政府解決策と、日韓関係改善に向けた韓国政府の説明を確認する。

  5. 林外務大臣臨時会見記録外務省

    2023年3月6日の韓国政府措置に対する日本政府の評価、歴代内閣の歴史認識を引き継ぐとの立場を確認する。

  6. 輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました経済産業省

    2023年6月の政令改正決定と7月21日の施行により、韓国を輸出管理上のグループAへ戻す過程を確認する。