アイヌ施策推進法施行とウポポイ―先住民族政策は法制度から文化拠点へどう展開したのか
一言でいうと
2019年5月24日、平成末に成立したアイヌ施策推進法が施行されました。法律はアイヌの人々を日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族と明記し、文化振興だけでなく、地域振興・産業振興・観光振興などを含む施策を総合的に進める枠組みを整えました。市町村がアイヌ施策推進地域計画を作り、国の認定を受けた事業に交付金などの支援を行う仕組みも設けられます。2020年7月には北海道白老町で民族共生象徴空間『ウポポイ』が開業し、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設を通じて、アイヌ文化の復興・発展と理解促進を担う拠点が具体化しました。2021年には北海道・北東北の縄文遺跡群が世界文化遺産に登録され、北日本の長い歴史と文化遺産への関心も高まりましたが、縄文文化と現代のアイヌ民族を単純に同一視することはできません。令和初期の政策は、平成期に形成された先住民族政策を制度運用と文化拠点へ移した段階であり、差別、生活、権利、文化継承などの課題がこれだけで解決したわけではありません。
2019年5月の法施行で、平成期の政策転換は何を実行段階へ移したのか
アイヌ施策推進法は2019年4月19日に国会で成立し、令和元年5月24日に施行されました。法律の目的規定は、アイヌの人々を『日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族』と明記し、民族としての誇りが尊重される社会と、すべての国民が人格と個性を尊重し合う共生社会の実現を掲げました。
先住民族との認識自体は、2008年の国会決議と政府見解などを通じて平成期に明確化されていました。2019年法の施行は、その認識を法律上の政策枠組みに組み込み、文化振興だけでなく地域・産業・観光振興などを含む総合的な施策として運用する段階へ移したことに意味があります。
2019年法は、令和になって初めてアイヌ民族を先住民族と認めた制度ではありません。平成期に形成された認識を法律に明記し、総合政策として実施する枠組みを整えた点が重要です。
法律は国の理念だけでなく、地域の施策をどう動かす仕組みを設けたのか
法律は政府が基本方針を定め、市町村がその方針に沿ってアイヌ施策推進地域計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受ける仕組みを設けました。認定された計画に基づく事業には交付金などの特別措置を講じることができ、文化の保存・継承や理解促進に加えて、地域振興、産業振興、観光振興などを地域ごとに組み合わせられるようになりました。
また、法律は民族共生象徴空間を構成する施設の管理や、アイヌ政策推進本部の設置なども制度化しました。2019年9月には政府の基本方針も定められ、法律の理念を個別事業へつなぐ行政の仕組みが動き始めました。
ここでは、国が一つの文化事業を実施するだけでなく、自治体の計画と国の支援を組み合わせる制度へ広がった点が重要です。一方で、地域によって課題や必要な施策が異なるため、制度があることと、各地域の課題が解消することは同じではありません。
2020年のウポポイ開業は、先住民族政策をどのように目に見える形にしたのか
2020年7月12日、北海道白老町に民族共生象徴空間『ウポポイ』が開業しました。新型コロナウイルス感染症の拡大によって当初予定から開業が延期された後、感染対策を講じて一般公開が始まりました。
ウポポイは、国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設などから構成されます。国は、アイヌ文化の復興・発展に関するナショナルセンターとして、アイヌの歴史・文化についての理解を広げ、文化の継承や新たな文化の創造につなげる拠点と位置づけています。
この開業によって、平成期から検討されてきた『民族共生の象徴となる空間』が実際の施設として動き始めました。ただし、博物館や公園の整備は政策の一部です。アイヌ民族の歴史、差別、生活、文化継承、遺骨の返還などをめぐる多様な課題を、一つの文化拠点だけで解決したと捉えることはできません。
2021年の縄文遺跡群世界遺産登録は、このTopicでどう位置づけるべきか
2021年7月27日、『北海道・北東北の縄文遺跡群』が世界文化遺産に登録されました。北海道・青森県・岩手県・秋田県にある17の考古遺跡からなり、採集・漁労・狩猟を基盤とした定住社会と精神文化を長期にわたって伝える遺産として評価されています。
ウポポイと縄文遺跡群は、どちらも令和初期に北日本の歴史・文化を社会へ伝える重要な拠点・文化遺産として注目されました。しかし、縄文遺跡群は先史時代の考古学的遺産であり、現代のアイヌ民族の政策とは制度上も時代上も別の対象です。縄文文化をそのまま現代アイヌ文化と同一視したり、世界遺産登録をアイヌ民族の系譜や権利の直接的な証明として扱ったりしてはいけません。
したがって、この世界遺産登録は令和初期に北方地域の文化遺産への社会的関心が広がったcontextとして扱い、縄文時代そのものの歴史は古代の詳細Topicへ戻って学ぶのが適切です。
なぜ令和初期の展開を『完成』ではなく政策実施の新しい段階と見るのか
2019年法の施行、自治体計画と交付金、2020年のウポポイ開業によって、平成期に形成された先住民族政策は理念から具体的な制度運用・文化拠点へ進みました。政策の対象も文化振興だけに限られず、地域・産業・観光などを含む総合的なものとして組み立てられています。
一方、法制度と文化施設が整ったことだけで、歴史的な差別、生活上の課題、文化と言語の継承、地域ごとの課題、先住民族の権利をめぐる論点が解決したわけではありません。令和初期は、政策の転換が完了した時期というより、平成期に決めた方向を具体的に運用し、その成果と課題を問う段階へ入った時期と捉える必要があります。
Review
入試で押さえるポイント
- アイヌ施策推進法は平成31年4月に成立し、令和元年5月24日に施行された
- 同法は『日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族であるアイヌの人々』と明記し、文化振興に加えて地域・産業・観光振興などを含む総合施策を制度化した
- 市町村のアイヌ施策推進地域計画を国が認定し、認定事業へ交付金などを講じる仕組みが設けられた
- 民族共生象徴空間ウポポイは2020年7月12日に北海道白老町で開業し、国立アイヌ民族博物館・国立民族共生公園・慰霊施設などで構成される
- 北海道・北東北の縄文遺跡群は2021年7月に世界文化遺産へ登録されたが、縄文文化と現代アイヌ民族を単純に同一視しない
- 法施行とウポポイ開業だけで差別・生活・権利・文化継承などの課題が解決したとは扱わない
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- 問1
2019年のアイヌ施策推進法によって、日本政府は令和になって初めてアイヌ民族を先住民族として認識した。
先住民族との認識は2008年の国会決議と政府見解などで平成期に明確化されており、2019年法はその認識を法律上の政策枠組みに明記しました。
本文の該当箇所を確認する - 問2
アイヌ施策推進法は、市町村が地域計画を作成し、国の認定を受けた事業に交付金などを講じる仕組みを設けた。
文化だけでなく地域・産業・観光などを含む施策を、自治体の計画と国の支援で進める制度が整えられました。
本文の該当箇所を確認する - 問3
ウポポイは国立アイヌ民族博物館だけで構成される施設で、国立民族共生公園や慰霊施設は含まれない。
ウポポイは国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設などから構成される民族共生象徴空間です。
本文の該当箇所を確認する - 問4
北海道・北東北の縄文遺跡群の世界遺産登録は、現代アイヌ民族の法的権利や民族的系譜を直接証明したものと位置づけられる。
縄文遺跡群は先史時代の考古学的遺産で、現代のアイヌ政策とは別の対象です。縄文文化と現代アイヌ民族を単純に同一視しません。
本文の該当箇所を確認する - 問5
2019年法の施行と2020年のウポポイ開業は、平成期に形成された先住民族政策を具体的な制度運用・文化拠点へ進めた段階と捉えられる。
令和初期は政策の『完成』ではなく、総合施策の運用と文化拠点の整備を進め、その成果と残る課題を問う段階でした。
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Sources
参考資料
- 『アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律施行令』等が閣議決定国土交通省
2019年4月19日の法成立と、同年5月24日の施行日を確認する。
- アイヌ関連施策国土交通省
アイヌ施策推進法の総合政策としての位置づけ、市町村計画・交付金、ウポポイの構成と役割を確認する。
- 『民族共生象徴空間』(愛称:ウポポイ)の開業及び開園記念式典について文化庁
ウポポイの2020年7月12日開業と、アイヌ文化復興の中核施設としての位置づけを確認する。
- 『北海道・北東北の縄文遺跡群』の世界遺産一覧表への記載決定について文化庁
2021年7月27日の世界文化遺産登録、17の考古遺跡と評価の概要を確認する。
